WORKS
005.
記憶を閉じ込める家
House of Memory
Design : Kouichi Kimura
Photograph : Kei Nakajima
この家が建てられる前からここには歴史が存在していた。

前方に幾重にも広がる田園風景は、都心の乱立したビル群とは無関係を装うように季節毎に表情を変え、ゆるやかな時間を刻んでいる。
先祖代々から住み続けているこの場所にも歴史を背負う茅葺き屋根の家があった。
百年を越す歳月を経て老朽化した建物は、解体されて形そのものは無くなってしまったが、その存在自体を失う事無く新しい家の中に記憶されている。
記憶を残す作業はまずランドスケープに現れる。エントランスへのアプローチには、以前、土台の基礎として使われていた切石が記憶の断片として連続的に埋め込まれている。
足から伝わる記憶は周りの田園や家の中に解き放たれる。
中に入ると開放的な吹き抜けの空間の向こうに中庭が現れ、その中心に配置された水の箱は揺れる水面によってメランコリックな表情を作り出している。

この詩的なモニュメントを取り囲むように各部屋は配置され、レイヤー状に挿入されたガラスの先には、長い歳月を経ても朽ちる事無く、大切に使われてきた蔵が、新しく計画された家にそっと寄り添うように存在している。 歩く度に意識される水の箱、漆喰の蔵は、この地を愛し守り続けた祖先のように見守りながらまた新しい記憶を重ねて行くだろう。